洗濯よもやま話

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随分と暖かくなった。洗濯物がよく乾いて嬉しい。洗いたてのシャツ越しに豪快に浮く2つの突起物を見て、俺は今日も乳首を切除したくなっている。北向き物件は冬になると本当に洗濯物が乾かなくなる。Tシャツですら乾くのに1日はかかる。デニムなんか3日かけても乾かなかったりする。3日は流石にきつい。デニムオタクは洗濯したあとのデニムをいそいそとコインランドリーに持ち込み、ゴウンゴウンという音と熱風とともに叩きつけられるデニムを恍惚の表情で見つめ、エクスタシーに達したりするらしい。

 

俺は断じてデニムオタクではないが、「乾かないから」という至極一般的な動機でコインランドリーを利用しようかと考えた。寒風に吹かれながら、歩いて10分くらいのところにあるコインランドリーに向かった。昔ながらのガス乾燥機にチャリンと小銭を入れる。7分100円。高い。ケチらないで10分単位にしてほしかった。なに7分て。テニスかよ。

 

上でデニムオタクを少し滑稽に描写しておいてなんだが、恥ずかしいことに俺も一度はデニムオタクロードに片脚を突っ込んだことがある。そしてこの乾燥機を利用したこともあった。デニムが完全に乾くには20分ほど必要であり、7分では乾ききらないことも知っていた。つまり、乾かすには300円必要であった。

 

乾燥機は3台あったが、内2台は「故障中」と手書きされた紙が貼りつけてあった。確かに相当古そうな見てくれをしている。とりあえず300円を投入し、外の自販機で缶コーヒーを買って、近くの喫煙所で2,3本吸って待つことにした。ガコン、と音をたてて缶コーヒーが落ちてくる。缶の中のガスがコーヒーを一緒に噴き出さないように、慎重にキャップを開ける。横では乾燥機がゴウンゴウンいっている。ふーむ、これぞ冬の風物詩、とでも言いたげな顔でコーヒーを一口飲んでから、煙草を吸いにいこうとしたその瞬間。「プシュー」という、機械が壊れるときの典型的な音をたてながら乾燥機が止まった。まだ金を入れてから3分くらいしか経っていない。故障だった。アウトオブオーダーだった。

 

他の2台も壊れていたし無理もない、と大人ぶりたいところだが、なにもこのタイミングで壊れなくてもいいではないかと抗議したくなる。3分間は回ってしまったから、100円は返ってこないとして、200円分は戻ってくるだろうと思って返却ボタンを押す。

 

何も反応がない。俺の200円は不当に搾取されてしまった。もしこの乾燥機の値段設定が「21分300円」だったならば返ってこなくてもまだ納得がいくが、実際は「7分100円」である。この場合は時間に区切りが設けられており、残り14分間はまだ始まってすらもいない。だから200円は返ってきて然るべきである、というのが俺の言い分であった。もしかしたら、乾燥機の中に隠し部屋が設けられており、この寂れたコインランドリーの経営者である爺、もしくは婆が、少しでも利益を上げるべく俺の200円が出ていってしまうのを必死に阻止しているのかもしれない。これでは横領である。居ても立っても居られなくなり、コイン投入口に顔を近づけてジャック・ニコルソンの如く「お客様だよー!」と叫んだりしたが、200円が返ってくることはなかった。

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というように、冬の洗濯にまつわる話には、悲劇的なものが多い。だからこそ、春になって何もかもが半日そこらで乾くようになると、人々はあれだけ大喜びするのである。春になると少し頭のおかしい人が増えるのも、洗濯物がよく乾くからである。浮かれて大学生がはしゃいでしまうのも、よく乾いた洗濯物が気持ちいいからである。世間で「花粉症」と称されて騒がれている例のアレルギー症状は、実際は花粉のせいではなく、人々が喜んで狂ったようにタオルを干すときにでるタオルくずのせいである。

 

こうして春には洗濯協奏曲が始まるのだが、俺の胸中は晴れやかではない。原因は靴下にある。靴下というのはあらゆる衣類の中でも耐久力が指折りに低い。特に吐き口のゴムの部分。あそこがすぐにへたれて、ずり下がり、汚いすね毛が世間様に露呈することになる。ちょっと奮発して1足2000円くらいの靴下を買ってもすぐダメになる。消耗品と割り切って次々と買い直せば楽だが、他に方法はないものだろうか。

 

ふくらはぎ辺りまでの中途半端な丈の靴下がいけないのかもしれない。思い切って膝あたりまである超長靴下にすればずり下がることもないかもしない。最終手段はガーターベルトだが、いくらなんでもこれは色々な面で危険すぎる。

 

ひとまず膝まであるやつを買ってみることにする。安くであるといいんだけど。