ご機嫌と春の予感

f:id:chicken0215:20190207093813j:plain

こないだ年があけたらと思ったらもう1月が終わっていた。2019年の1/12は既に終了したのだ。ホラーである。

 

1月前半は実家に帰っていた。ストーブの前で雑煮をすすりながら箱根駅伝を観た。家族との時間を一通り楽しんで、「今回も飛行機が墜落しませんように、生きて帰れますように」と毎度のごとくお祈りをして、神戸行きの飛行機で帰った。1月21日が卒論の提出期限だった。「年内にあらかた書いちまって、心穏やかに新年を迎えよう」とか考えていた。しかしまあ、夏休みの宿題は最終日までため込んで、涙目になりながら何を書いてるのか分からないようなクソ汚い文字で解答欄を埋めるような人間として育ったので、そんな計画が上手くいくはずもなかった。「計画」というからには「論文の構成はこう、何日までに何章まで書こう、とりあえずここまで書けばあとは全体のまとめと要旨、参考文献なんかを書けばいいから、ひとまず本文を完成させよう、さぁ、早速書いちゃうか」という具合に事が進むはずだ。ところが、コツコツ地道にやるべきことを進めるという習慣を身に着けなかった人間の計画というものは「年内にあらかた書いちまおう」、これだけである。およそ計画と呼べる代物ではない。何だ”あらかた”って。どこまでだよ。まずは言葉の定義からですねェ!(グループディスカッション中の就活生風)

 

”あらかた”で済ませてしまうと非常に危険だ。人間は何でも自分の都合の良いように解釈してしまう。好きな人と目が合っただの、肩と肩が触れただの、客観的にみれば偶発的な出来事でしかないものを拡大解釈して「もっ、もしかしてェー!」みたいなことを絶叫しながら人は死ぬ。”何日までにどこまで”のように明確な線引きをせずに、”あらかた”の一言で「これが計画です」なんてことにすると、「まだ大丈夫」「まだ間に合う」とか言って、”あらかた”の懐の深さを利用して”あらかた”を都合よく解釈してしまう。お前はあらかたちゃんの何を分かっているというのだ、謝れ。彼女のことを好き勝手に決めつけて、実際と自分の認識とに乖離が認められたとき、お前はあらかたちゃんに怒鳴ったりするんだろう。人に勝手な幻想を抱いて、勝手に幻滅するのはやめろ。でもまぁ分かるぜ気持ちは。きっと俺らのことだって誰かが「あいつらはああいう奴ら」みたいに決めつけて、期待して、見損なったりしてるんだろう。知ったこっちゃねえよなあ。まぁ、結局人のことをどう思うかはそいつの勝手だけどさ、ならこっちがどう生きようが勝手だよな。とりあえず元気出せよ。コーヒーでも飲みに行く?

 

ここまでの話を簡単にまとめると、僕はバカなので1月に入ってからも卒論を一文字も書いていなかった。グラフを載せればひとつ1000文字扱いになるというので、クソみたいなグラフを量産した。まとめると300文字くらいにしかならない厚みのない主張を、水で薄めまくったカルピスみたいに希釈して、無理やり15000文字くらいにした。グラフも含めて何とか規定の文字数を満たした。結局、作業時間は18日から始めて3日くらいだった。全体の筋肉が緩み、薄黄色と紫を混ぜたような顔で、卒論みたいなゴミを提出した。「うーん書いちゃおっかなー、どうしようなー、とりあえずファミチキ買いにいこ」みたいな感じで書き始めるのに3か月くらいを費やした。さっさと書け。

 

まぁ、出したからにはこっちのもんである。提出の翌日から僕は物凄くご機嫌になった。ご機嫌すぎて一日に13km散歩したりした。躁鬱である。通りを歩いているときなんか、意味もなく指パッチンをしながら体を揺らしてしまう。道行く人に全力で挨拶しそうになる。脳ミソの幸せを司る部位からメキメキィとカエデの木が生えてきて、そのままメープルシロップが採れてしまうくらいにご機嫌だ。毎朝早くから起きて、コーヒーを淹れて、本を読んでいる。窓を開けて六甲山を見ながら深呼吸をする。最近温かくなったから更にご機嫌だ。雨が降った後の、水気を含んだ風がどこからか花の匂いを運んできたときなんかは、このまま死んでもいいな、とか思う。春はなんというか、春にまだなりきれていない、冬と春の狭間の時期が一番いい。昼下がり、エアコンを付けずとも部屋が暖かい。なんなら布団のひんやり感がむしろ気持ちよくて、「気持ちイイねぇ」なんて気持ちの悪い顔で言いながらベッドに寝転んでたらいつの間にか寝てた、みたいな。梅が咲く時期が一番好きだ。梅っていいよね。慎ましくて。これが春本番になると、花粉症なのか知らんが(そうではないと思いたい)鼻が妙にムズムズする。桜はどこそこで盛大に咲きまくっていて少々下品に感じるのは僕だけだろうか。大量の花びらが散って、歩道の段差とか、側溝とか、マンホールの上とかに溜まる。それが花曇りが降らせた雨で腐って、グジュグジュの茶色い有機物の集合体になっているのを見ると、「春って最低だな、汚ねえな」と思う。春は春になりきる前がいい。ロリコンの気持ちが少しわかった気がする。